とても甘い花の香りがたちこめる街があった
だんだんと心臓の筋肉が衰え
ゆっくりと鼓動が弱くなっていく病が流行る街だった
その街の花屋の娘はたいそう気立てがよく器量良しで
そして常に かすかに甘い香りをまとっていた
ある日 流行り病で娘は死んだ
娘はたくさんのひとに看取られて死んでいった
たくさんの人の涙とともに死んでいった
私もそんな娘を看取った人間のひとりだった。
娘の死んだその日は 空がひどく青く晴れていて
そして死に際の彼女からは
ひときわあまい かおりがした。
それはまだ 私が幼かった頃の はなし。


そして今 彼の部屋の隅 微か かおる

蓮 の 芳 香 。
(その香りはあの街の匂いに、
そしてなによりあの娘のまとっていた香りに
ひどく 似ている。)